日本の真裏ブラジルにある曹洞宗・佛心寺の僧侶 田原さんインタビュー
日本から18,500km。時差12時間。日本の真裏ブラジル・サンパウロに、お坊さんとしてご活躍されている日本人がいます。曹洞宗・佛心寺の田原 良樹さん。大学卒業後に僧侶の道を歩みはじめ、ブラジルに来て約10年。日本人の心に根付く仏教の教えを、遠い南米でも布教されています。今回は、田原さんにお坊さんになったキッカケやブラジルに来たキッカケ、仕事のやりがいやモットーについてお聞きしました。
仏教を通じて「希望を持って生きることができる人を増やしたい」
お坊さんを志したキッカケ
―早速ですが、お坊さんになったキッカケを教えてください。
田原さん:実家がお寺だったのが1番大きな理由で、大学卒業後に福井の永平寺に修行に行きました。世襲でお坊さんになるケースが多い世界ですが、お坊さんになってから何をするかが大事だと考えていました。始めるきっかけはもちろん大事ですが、始めた後に自ら可能性を広げたり、やりたいことを実現できるよう行動に移すことを意識していました。これはお坊さんの世界だけでなく、一般の社会人や学生の方にも共通する考えではないでしょうか。
―大学を卒業してお坊さんの世界へ進む中、苦労はありましたか?
田原さん:大学生の生活から修行の生活は別世界だったので、はじめは苦労しました。全ての時間が管理されるので自由な時間が無いですし、精進料理でお腹も空きました。しかし、半年もするとその生活に慣れ、全く問題ありませんでした。お坊さんに囲まれて生活していると、自然とお坊さんに近づいている感覚がありました。良い環境に身を置き、良い人たちが周りにいたので、自分は良い影響を受けながら修行を行うことができました。
南米で目の当たりにした“貧富の差”
―ブラジルへ移住された経緯を教えてください。
田原さん:海外研鑽僧という制度を利用し、1か月半南米を巡った経験があります。クリスマスにペルーで有名なアルマス広場に行った際、クリスマスマーケットが開催され、多くの観光客が訪れていました。一方で、恵まれない人たちが教会の配給を受け取っている現状があり、社会のギャップを目の当たりにしました。お父さんとお母さんが絶望に暮れている中、子供2人が手を繋いで楽しく踊っている姿を見た時、色々な感情が湧いてきました。今すぐは無理かもしれないけど、こういった人たちが屋根のある家で、みなさんが想像するような聖なる夜を送って欲しい。普通の生活を送って欲しいと思いました。僧侶としてその場にいましたが、具体的に何をしたらいいか分からず、この世界に希望を持って生きる人を増やしたいと思い、ブラジルに来ることを決意しました。
人生は辛いことがたくさんあります。辛い中でもそれをポジティブに捉えて、ステップアップだと思って乗り越えて欲しいと願っています。乗り越えるための力を伝えることが宗教にはできると思っているので、皆さんの考え方や生き方に少しでも貢献できたらいいなとは思います。今でも答えを探している最中ではありますが、仏教の教えを広めていきます。
全てのモノは移り変わる~今この瞬間も。1秒ごとに変わる~
―ブラジルの文化に適応するために行ったことはありましたか?
田原さん:個人の視点では、ブラジルの文化を理解して適応するのは大事だとは思いますが、日本に本山があるお寺なので、日本人であることを大切にしています。お寺というのは「来る者は拒まず、去る者は追わず」の考えがあります。私はブラジル人に仏教を伝え、来たい人は何度でも来ればいいし、飽きたなら来なくてもいいと考えています。
「全てのものは移り変わる」という、仏教の考え方があります。こうしている間にも物事は変わっているし、1分前の自分と1分後の自分も全然違います。刻一刻と変化していく中、多くの方に教えを伝えるということは、自分も相手も環境も変わるので、その変化を受け入れなくてはいけません。逆に「自分はこうでなくてはならない」など固執して、凝り固まるのは絶対に良くないです。私たちの場合、教えることは変わる訳では無く、伝え方が変わるだけです。人に合わせて伝え方を変えるようにしています。
苦しみを取り除くのが僧侶の役目
―ブラジルで仏教の教えを伝える中、どのような点にやりがいを感じますか?
田原さん:ブラジルの人がお寺から帰る際、「オブリガード」と言いながら合掌をする姿を見た時にやりがいを感じます。皆さんお寺に初めて来る時には、合掌の意味を分かっていないと思います。「右手は仏様の手、左手は私たちの手。これが合わさる時は仏様も私たちも区別なく、全て受け入れて認め合うことを意味します。」とお寺で伝えると、日本とは違う文化の人たちでも変化があり、合掌しながら帰ってくださいます。
自分とは違った文化や習慣を受け入れてくれていると実感しますし、そういった寛容性が生きていく上で1番大事なことかもしれません。自分と同じ考えの人なんている訳が無いですし、受け入れていかなくてはなりません。お寺は人と人が出会う場所でありますし、違ったものの見方や考え方を学んで、社会に出て欲しいと願っています。辛いことや苦しいことがあっても、お寺での経験を頭の片隅に置いて、前向きに取り組んで欲しいです。
―今度のビジョンやキャリアパスをどのようにお考えですか?
田原さん:南米に来て「仏教・曹洞宗の教えは素晴らしい」と改めて実感するので、それを皆さんに知っていただきたいです。具体的には、南米のお坊さんを増やすことで、多くの方に知っていただけるようにしていきたいです。現状、日本じゃないと修行ができないので、南米でもお坊さんになれる仕組みを構築したいです。精神的・肉体的どちらにせよ、「苦しみを取り除く」のが僧侶の役目です。教えを伝えられるお坊さんの数が増えれば、辛い思いや悲しい思いをしている人たちが少しでも減っていくと信じています。
~生涯修行~学ぶことに終わりなどない
―田原さんのモットー(座右の銘)を教えてください。
田原さん:【生涯修行】です。学ぶことには終わりはありません。仏教的なものだけでなく、生きる意味でも学び続ける・学びを辞めないことはとても大切です。生きることに対しての定年は死ぬ時だけです。生きる意味でも仕事についてでも、何でもいいから学び続けることです。学び続けるためには、謙虚であることは非常に重要で、頭を下げないと分からないことがあります。学べるということは、誰か教えてくれる人がいて、周りの環境があってのことです。自分を卑下する必要はありませんが、「自分はまだまだ」と謙虚に学び続ける姿勢を大切にしていますし、皆さんも大切にしてみてください。
自分に奢らない。周りがあっての自分
―最後に、日本の若者へメッセージをお願いします。
田原さん:先ほどお伝えしたことにも繋がりますが、謙虚に学び続けることと、ご縁に感謝してください。例えば、資格を取ったからと言って満足するのではなく、さらに学び続ける。今こうして生活できているのは、色んな人のご縁のおかげなのだと感謝する。そういった考えを忘れて欲しくはありません。謙虚に学び続け、ご縁に感謝する。応援しております。
田原 良樹
大学卒業後、半年間のアルバイト期間を経て福井県・大本山永平寺へ上山。修行中に海外研鑽僧として南米・北米にそれぞれ1カ月半の滞在を経験。永平寺を下りて3週間後にブラジルへ渡る。以後、永平寺と横浜市・大本山總持寺の別院である、サンパウロ・佛心寺の僧侶として、お参り・供養・坐禅などのお寺の通常業務から、南米各地のお坊さんを管理する事務仕事など行う。(2023年12月現在)
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