地元でのワイン作りを目指す水野 博文インタビュー
世界有数のワイン産地であるフランス・ボーヌ地方。辺り一面にブドウ畑が広がるこの町に、ワイン造りを学ぶ一人の青年がいます。将来は地元の福島県石川町でワイン造りを目指す水野 博文さん。今回は、造り手を目指し、ワインを学んでいる真っ最中の水野さんにインタビューしました。
水野 博文
福島県石川郡出身。専修大学卒業後、福島県が主催する1年間の長期就農研修に参加。フランスでワイン造りを学ぶべく2022年に渡仏。1年間フランスの語学学校へ通いフランス語を勉強。現在はフランスにあるワイン専門学校にて、ワインの造り手を目指し勉強中。(2023年11月現在)
長期就農研修HP:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/37207a/tyoukisyunou19.html
誠実に生きる
フランス語が分からない状態で渡仏し、今ではフランス語で行われるワイン学校の授業も難なく理解し、ワイン農家で実習もされている水野さん。そんな水野さんのモットー(座右の銘)をお聞きしました。
水野さん:大切にしているモットーは、「誠実に生きる」です。自分ひとりじゃ何もできなかった人生ですし、本当いろんな人に助けられて歩んで来た人生です。これまで育ててくれた両親や家族もそうだし、フランスに来てからもバイトをさせてもらった「restaurant SO」の高橋さんをはじめいろんな人に助けてもらっていると実感します。
つまりそれは、自分が今まで真面目に誠実に生きてきたから、信用して助けてくれる人がたくさんいたと思います。周りから嫌われているような人でも関係ない。自分がお世話になった人であれば、すごく感謝します。きっとこれからもたくさんの人に助けてもらわなきゃいけない人生なので、誰に対しても平等に接して感謝をし、誠実に生きていきたいです。
人生に悩んだ際、見つけた“農家への道”
「誠実に生きる」をモットーに人生を歩んでいる水野さん。しかし、大学在学時の就活では挫折を味わい、新たな道を歩むことになります。
水野さん:就活では思うように内定を頂けませんでした。両親が門松を作っていて、「いずれは継ぐから、それまで働く会社を見つければいい」と思って就活をしていたのが良くなかったですし、面接官に見透かされて内定を貰えなかったと今では思います。家に戻るとなっても門松は季節商品なので、他にできることが無いかを探しました。幼少期から食べるのが好きだったので、「食」に関わる仕事がしたいと思い、農業の道へ進むことに決めました。いきなり農業をはじめるのは難易度が高かったので、福島県が提供している農業研修制度を活用し、農業について学び始めました。
―福島県は日本有数の果物の産地でもあり、他の作物も盛んな農業地域だと思います。その中で、なぜワイン造りを志したのですか?
水野さん:大学時代にヨーロッパへ旅行をした際、日常にお酒が溶け込んでいるのが印象に残っていました。特別な日じゃなくても昼からお酒を飲むし、その文化が「なんかいいな」と思い、興味を持ったのが最初のきっかけです。
就農研修に通い始めた当初はワインに決めていた訳では無く、果物全般の研修を受けていました。どうせやるなら地元を盛り上げられる作物を作りたいし、ワインは地域おこしとも相性がいいと分かり、地元の気候もぶどう栽培に適していたので「ワイン造りいいかも」と思うようになりました。
―フランスへ来たきっかけは何でしたか?
水野さん:ワインの資格取得に向けて勉強をはじめたところ、ワイン造りの面白さに魅了され、本気でやりたいと思いました。ワインは思想的な部分が非常に強く、どういう想いでワインを造っているのかを知りたいと思いました。もともとブルゴーニュワインが好きだったのもありますし、ワインの本場であるフランスで学ぶことを決意しました。
お世話になった人に飲んでもらいたいワインを造る
2022年の夏からフランスへ来て、語学学校でフランス語を1年間学び、2023年9月からワイン学校に通い始めることに。いよいよワイン造りへの道を歩み始めた水野さんに今後のビジョンをお聞きしました。
水野さん:地元の福島県石川町でワインを造りたいです。家族もいるし感謝している人が多い町なので思い入れがあります。地方で過疎化も進んでいますが、お世話になった町でワインを造り、地域おこしができればいいと思います。時間も限られているので、一刻でも早くワイン造りを習得し、いろんな人に飲んでもらえるように頑張りたいです。
―ワインの魅力はどのような点に感じますか?
水野さん:同じ味のワインは無く、テロワール※1と呼ばれる味の違いを楽しめる幅の広さです。土地によって味が大きく変わりますし、同じ土地だとしても1年毎に天気や気候は変わるので、味の違いを楽しむことができます。ワインは何年も保存することが可能なので、同じワイン農家でも製造年で味の比較もできます。ビールや日本酒が嫌いな人でも、スパークリングワインやシャンパンも含めて様々な種類のワインがあるので、年齢や性別を問わず楽しめるのがワインの魅力です。
踏み込まないと分からない。だからこそ踏み込んでみて欲しい
最後に、日本の同世代へのメッセ―ジをいただいた。
水野さん:勉強しないと、踏み込まないと、面白さが分からないことはよくあると思います。ワイン造りがそうで、たまたま踏み込んだところワインの世界に魅了されました。だからこそ、勉強は非常に大切だと思いましたし、どっぷりその世界に入り込む重要性に気づきました。「今やりたいことが無い」という人が多い印象を受けますが、いろんなことを挑戦してみたり、踏み込んでやってみることは重要です。踏み込まないと面白さが分からないので、少しでも興味のあることに踏み込んでみてください。
※1テロワール:元々は世界最高峰のワイン生産地であるブルゴーニュで生まれた概念で、フランス語で大地を意味する「TERRE テール」、もっとさかのぼるとラテン語で領地を意味する「Territorium テリトリウム」が語源となっています。ブルゴーニュは長年にわたる地殻変動や気象変化によって岩石が浸食や崩壊を繰り返した結果、「ほんの数メートル離れた隣の畑でもワインの味わいが異なる」といわれる特異な土地。そのためまずブルゴーニュでブドウがどのような環境で育ったか=テロワールという考え方が生まれ、その後ほかのワイン生産地やほかの農作物にも拡がっていったというわけです。
【ワインの味わいを左右する「テロワール」とは?(サッポロビール)】https://wine.sapporobeer.jp/article/terroir/