社会の問題を解決できる、インパクトのある一手を打つために
高校時代から社会問題に興味を示し、大学卒業後は社会人経験を挟み、ロンドン大学ゴールドスミス校で環境に関連した社会学を研究している松丸さん。社会人時代には、「トビタテ!留学Japan」を通じて知り合った勝見仁泰らと共に株式会社アレスグッドを創業。学生時代に違和感を持っていた「就活システム」の課題解決をする「エシカル就活」を立ち上げ、2022年に1.5億円の資金調達、2023年からはアメリカでの事業展開をスタートされました。今回は、環境や社会に対する視座を高く、自らの学びやキャリアを深める松丸さんにインタビューしました。(2023年11月現在)
学生時代から持っていた「社会への問題意識」
高校時代のカナダへのホームステイをきっかけに、食糧問題へ課題意識を持ち始めた松丸さん。大学時代には国の奨学金制度を利用し、イギリスで環境問題への理解を深めました。
松丸さん:高校時代の3か月間のカナダ留学を通じ、北米における肥満の割合が多いことやフードロスに対して気になりました。自分の食生活を改善したり、食と健康の関連性を調べるうちに、食は個人の健康だけではなく、農業や畜産、フードロスなど様々な要因によって地球規模で環境に悪影響を与えうるのだと知りました。初めは、「食」という分野から生まれた興味ではありましたが、「今着ている服の社会や環境への影響はどうなんだろう」など、あらゆることが気になるようになりました。
深堀すると、環境資源の破壊や”途上国”の労働搾取など、多方面に渡って根強い問題が絡まりあっており、そういった問題に対して、働きかけたいと思うようになりました。高校時代に興味が湧き始め、大学1~2年で自分の気づきを深めていき、大学3年次の留学でヨーロッパの先進的な取り組みを目にすることができました。
大学3年次の留学では、文部科学省が提供している「トビタテ!留学Japan」※1というプログラムを利用して留学しましたが、魅力の多いプログラムだと思います。
まず、金銭的な支援が手厚く、給付型なので返済不要という点が大きいです。現地での生活費や学費を全て賄える訳ではありませんが、お金の心配をしなくていいのは魅力です。
次に、自分で留学計画を作成し、提出する点です。審査を通過して留学に行く場合、その計画通りに実践しないといけません。正直、勉強が忙しい時などは言い訳をしてサボりたくなる時もありましたが(笑)、自分で宣言したことをやりきろうと思えましたし、実行に移すという面で背中を押してもらえている感覚になりました。
最後は、トビタテのコミュニティに所属できる点です。自分と同じ期の仲間と研修を一緒に受けることで刺激を貰えますし、トビタテ1期から今までの期のメンバーが所属するコミュニティも存在しますので、そこでの仲間意識が非常に強いです。私自身、トビタテの仲間と会社を創業したので、貴重なご縁を頂きました。
コロナ渦のモヤモヤと就活への違和感から「エシカル就活」リリースへ
大学卒業後、在学中からインターンをしていた青山ファーマーズマーケットの運営団体に入社しました。入社と同時にコロナが直撃し、自分のキャリアについて再考せざるを得なかった状況の中、新たな挑戦をスタートします。
松丸さん:30歳前後の客層が多い中、お客さんとして学生が頻繁に足を運ぶのが珍しかったようで、運営の人から声をかけて頂きました。運営ボランティアから始め、留学前後はインターンとして働き、卒業後もそのまま社員として在籍することになりました。しかし、コロナの影響によりマーケットが余儀なく開催休止することになったり、仕事以外でアクションを起こしたくても起こせない日々を過ごしました。
そんな中、元々任意団体として運営していたアレスグッドを法人化するにあたり、勝見から立ち上げの話を貰いました。コロナ禍でモヤモヤしていた時期でもありましたし、日本の就活の在り方に疑問があり、自分が欲しかったサービスを作りたかったので、勝見の想いに共感してチームにジョインしました。2020年11月にアレスグッドを創業し、当初は本業の傍ら、勤務後や土日を使いながらガムシャラに活動しました。丸井グループが主催するアクセレラレータプログラムに採択され、3か月間メンターに伴走いただいたことで、事業がブラッシュアップされたのも追い風になりました。資金調達も達成し、就活生への認知度も向上しているので、海外展開を含め大きくしていけたらと思います。
社会問題の根元の部分へアプローチすることで社会課題解決を
アレスグッドとは業務委託という形で関わりつつも、メインは大学院で社会学の研究をされています。1年間という留学期間を経て、松丸さんが思い描くキャリアについてお聞きしました。(2023年11月現在)
松丸さん:現状明確に考えている明確なビジョンは無く、イギリス留学している1年間で、今後のキャリアについてある程度明確にプランニングしようと思います。大学卒業後は、導かれるままにキャリアを歩んで来た印象があります。青山ファーマーズマーケットはインターンから社員になりましたし、アレスグッドの創業は勝見からのひと声で始めました。社会に出てからビジネスや利益を生むことの難しさを経験し、現在はいわば「理想」を探究するアカデミックの世界にいます。ビジネスとアカデミックの違い、理想と現実の違いをこの1年で感じながら、今後のキャリアを考えていきたいです。
元々は「食」から視点を広げて社会問題について関心を持ち、調べるようになりましたが、世界中であらゆる問題が複雑に絡み合っています。以前は、資本主義が悪いという仮説を立てたこともありましたが、そういった○○主義で置き換えられるような問題でもありません。私たちが目に見えている課題や問題は、ほんの一部で末端に出てきたものです。将来的には、目に見える1つ1つの課題を解決するのではなく、あらゆる問題の根源や発端に対してアプローチはしていきたいなとは思っています。
若者が声を上げ、その声が反映される日本を
大学で社会課題や今後のキャリアパスについて研究したり、考えている松丸さん。日本の同世代や若者に対してどのような印象をお持ちなのだろうか。
松丸さん:コロナ前にグレタさん※2が出て来た頃から、日本でも気候変動やその他社会課題に関して考えたり、発信する人が多くなっている印象を持っていて、良い兆候だと思います。選挙の投票率が問題になっていますが、自分が行動しても結果に反映されないから諦めたり、行動しなくなる人もいるかと思います。それだと、権利がある人の思うツボだと思いますし、できることに取り組み続けることは社会にとって非常に意味があると思いますし、そういった動きが増えて欲しいです。
その一方で、社会にきちんと若者たちの意見が反映されているかと言われると、反映はされていないように思います。また、問題に取り組み続ける環境が整っていないとも感じます。例えば、学生時代にアクティブに活動していても、卒業後にそういった仕事はなかなか無いですし、一般企業に就職したら目の前のことに忙殺されがちで、社会について考える時間がないという人も多いのではないでしょうか。そういった点は、スピードアップして改善する必要があるでしょう。
周りから何を言われても、自分が正しいと思うことを諦めず行動を!
これまで社会課題を軸にしながら松丸さんのキャリアをお聞きしてきました。最後に日本の同世代や若者へ向けてメッセ―ジを頂きました。
松丸さん:諦めないで、自分がやりたいことをやってみてください。私たちの世代は生まれてこの方ずっと不況ですし、自然災害も多く経験していて、絶望する要素が多いかもしれません。行動しても変わらないことに対してモヤモヤするかもしれませんが、行動しないよりかは、信じている方向に向かって行動していると思える方が、自分としても気持ちがいいと思います。例えば、周りに誰一人海外に行った人がいない地方出身で、周りから留学を反対されたとします。それを理由に諦めるのはもったいないですし、その時自分が正しいと思うことに素直になって決断してみてください。「正しい」という判断基準は年齢や時代と共に変わっていくとは思いますが、その時々で正しいと感じるものや、やるべきと感じることに素直になって行動してみることで、より良い世界を作っていきましょう。
松丸 里歩
1998年生まれ。2018年に官民協働留学奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN」に採用され、都市部の人々の食や社会問題に対する意識を調査するためにロンドンへ留学。大学卒業後、青山ファーマーズマーケットの運営団体に入社。2020年に株式会社アレスグッドを共同創業。「エシカル就活」プロダクトマネージャー。現在はGoldsmiths, University of London(ロンドン大学ゴールドスミス校)のMA in Ecology, Culture and Societyという修士課程に在籍中。(2023年11月現在)
※記事投稿後の2024年1月31日に株式会社アレスグッドを退職し、大学院での研究へ専念されています。
☆株式会社アレスグッドHP:https://www.allesgood.jp/
☆松丸さんX(旧Twitter)アカウント:https://twitter.com/rihomarumatsu
☆松丸さんInstagramアカウント:https://www.instagram.com/rihomarumatsu/
☆松丸さんHP: https://www.rihomaru.com/
☆松丸さんNote:https://note.com/rihomarumatsu
※1トビタテ!留学Japan:政府だけではなく、官民協働のもと社会総掛かりで取り組む「留学促進キャンペーン」です。文部科学省は、意欲と能力ある全ての日本の大学生や高校生が、海外留学に自ら一歩を踏み出す機運を醸成することを目的として、2013年に留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を開始しました。
【トビタテ!留学JAPANとは? | トビタテ!留学JAPAN | 文部科学省】
https://tobitate-mext.jasso.go.jp/about/
※2グレタ・トゥーンベリ:2003年生まれ。スウェーデン出身の環境活動家。15歳の時にスウェーデン語で「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを行ったことで名が知られるようになった。気候変動の危機に立ち向かうため、すぐさま行動を始めるよう世界に呼び掛けている 。両親に飛行機旅行を断念させたり肉を食べないよう説得するなど、日常生活でも二酸化炭素排出量の少ないライフスタイルを実践している。
【グレタ・トゥーンベリ‐ウィキペディア】https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AA