テック系マーケティング職から起業|108Labo・Soy Kinako 宜保 陽子さんインタビュー
世界一の経済都市であるアメリカ・ニューヨーク。10年以上に渡りビジネスの第一線で活躍し、昨年起業された日本人がいます。世界で活躍する日本人にこれまでのキャリアや、これから海外で挑戦したいと思う人へヒントとなる情報を提供する~What’s up 日本~。今回は、108Labo/Soy Kinako 代表の宜保 陽子さんにインタビューしました。
アメリカへの憧れと自分の価値を上げるためのキャリアパス
大学卒業後、楽天へ入社しEコマース事業に携わった後にGoogleの日本法人へ転職し、IT系のキャリアを日本で歩みました。社会人4年目を過ぎた時、誰もが憧れるような大企業でのキャリアに見切りをつけ、アメリカでの挑戦を選択されました。
―アメリカでキャリアを歩むこととなった経緯を教えてください。
宜保さん:楽天を退職してすぐにアメリカへ渡ろうと考えていましたが、Googleからオファーを頂き、転職しました。Googleで勤めている時もアメリカには行きたいと考えていたので、社内異動という形でアメリカに行きたいと思っていました。しかし、大企業が故に時間がかかりそうと感じ、1年半務めたタイミングで退職し、自分でアメリカに移住しました。
ニューヨークのビジネススクールへ進学し、1年間学べば卒業後に研修ビザ(OPT) を取得コースでマーケティングを専攻しました。卒業後は、現地のスタートアップへ入社しました。卒業時に取得したビザは、1年の期限がある「お試しビザ」のようなものでした。1年間のパフォーマンスを評価してもらい、会社からビザを発給していただいたので、アメリカでのキャリアをスタートできました。
―アメリカ・ニューヨークを選択された理由はありますか?
宜保さん:ニューヨークには旅行で数回訪れたことがありました。来るたびにニューヨークのエネルギーやカルチャーに圧倒されました。日本では感じられないようなパワーを持つこの都市で、実際に住んで、仕事でチャレンジしてみたい想いがあり、ニューヨークへ来ました。働く企業もアメリカの会社にすると決意して渡米しました。
―みんなが羨むような日本でのキャリアから、アメリカへ渡る際に不安はありませんでしたか?
宜保さん:人脈も無い、留学中の1年間は学生になるので収入も無い、ビザを取れる保証も無いという漠然とした不安がありました。周りの人もGoogleを退職して渡米することに対し、ネガティブな印象を持っていました。
ただ、今までの人生で1番良い決断をしたのは、アメリカ行きを決めたことだと思います。現地での職務経験が無かったですが、アメリカの企業は日本の現地法人よりもレジュメをしっかり見て判断してくれました。日本での経験を評価していただき、自分の市場価値を落とすことなく思い描くアメリカでのキャリアをスタートしました。
世界一の経済大国でスタートアップに携わって得られた経験とスキル
アメリカでは、1社目にヘルスケアスタートアップのNoomへ入社。その後、NewsPicksのアメリカ事業ローンチや、ハードウェアスタートアップのWilloでマーケティングの責任者を担当。アメリカでテック系のスタートアップで勤め、どのような経験やスキルが身に付いたのでしょうか。
宜保さん:世界中から優秀な人が集まるのがニューヨークです。情熱やミッションに共感してスタートアップにジョインした自分よりもスマートな人たちから、刺激を受けることができます。また、マーケターとして、アメリカという世界一のダイナミックな市場、ユーザーについて知れるチャレンジングな経験をできました。新しいマーケティングの手法や戦略を実践できるのは、やりがいにもなっています。
スタートアップでずっと勤めてきて、お金もリソースも限られる中、どうやったら実現できるかを考える習慣も身に付きました。チームは小さいので、自分がイニシアティブを持って仕事を進めるオーナーシップが重要です。創業当初は大変な瞬間も多いですが、会社のサイズやビジネスのボリュームも大きくなり、人も増えていく成長に携われます。求められることが変化していくのもスタートアップの面白い点です。
起業に込めた【日本のアイデンティティ×マーケターとしての集大成】
ニューヨークに来て10年。2023年にグリーンカード(アメリカの永住権)を取得し、そのタイミングで起業された宜保さん。起業のきっかけと、起業に込めた想いとは?
―起業されたきっかけを教えてください。
宜保さん:グリーンカードを取得したらやってみたいことのひとつに起業がありました。自分と同じ志を持った仲間と、自分たちでカルチャーを作って価値を生み出したい。それを通じて社会に大きいインパクトを残したい。自分ひとりではできないような社会への影響を与えたいと考え、起業を決意しました。
―プロダクトに“きな粉”を選んだ理由を教えてください。
宜保さん:日本人としてのアイデンティティを活かせること、今までのキャリアの集大成として自分なら何ができるかを試すつもりで選びました。これまでずっとアメリカで勤めていて、日本との繋がりが希薄になりました。それと同時に、アメリカでの生活が長くなればなるほど、自分の起源を意識するようになりました。仕事を通じて私ができる日本への恩返しをしたいですし、活動を通じて日本の中小企業の活性化などに寄与できればいいなと思います。
―アメリカ国内のきな粉に対する認知はいかがでしょうか?
宜保さん:残念なことに、現状では全く認知されていません。ただ、アジアのカルチャーや食べ物はアメリカでメインストリームになっています。特に移民の2世や3世の若い世代が割合を大きくしていて、異国のモノを受け入れるハードルが下がっており、日本食で言うと抹茶やおにぎりはニューヨークのような大都市部では特に人気を集めています。こういった時代の背景や潮流を加味しても、追い風となっている気がします。これまでの集大成として、誰もやってこなかった“きな粉”をアメリカの消費者にいかに認知してもらい、浸透させるかを取り組んでいきたいです。
―今後の目標やビジョンはどのようにお考えですか?
宜保さん:昨年から開始した Soy Kinako のブランド作り・ブランド認知を着実に進めていきたいです。ブランド認知には10年前後の時間が必要と言われ、忍耐力も重要になります。簡単では無いですし、時間もかかると思いますが、スピード感を持ってやっていきます。
自分を客観的に分析し、キャリアパスの選択を
日本とアメリカでキャリアを歩まれてきた宜保さん。今後海外で働きたい、海外の市場を相手にビジネスをしたい人へのヒントにもなる考えをお聞きしました。
―これまでのキャリアをもとに、アドバイスなどはございますか?
宜保さん:私も日本で新卒入社した時には、明確にやりたいことはありませんでしたが、直感で「何となくこれかな」という方向性や、興味がある分野の知識や経験を深め、極めることは非常に重要です。加えて、客観的にどのスキルを伸ばしたら転職市場で需要があるか、自分の強みとやりたいことが合致しているかを照らし合わせて判断してみてください。
私もアメリカに来た当初は、現地企業で日本市場の担当として仕事をしていましたが、そのような職はアメリカのジョブマーケットでニッチすぎるので、アメリカでのキャリアをどう描いていくか不安がありました。なので、社内転職をして日本市場とは全く関係ない、アメリカ・グローバル市場のグロース、マーケティング職へ移行しました。マーケティング領域でも、データをより活用する職種へ移行して、言語力でビハインドを取らないキャリアを歩む決断をしました。その結果、アメリカで自分の市場価値を上げることができました。その国のジョブマーケットで評価される領域を理解し、戦略的にキャリアパスを描けるといいと思います。
海外・アメリカで働きたい人必見!採用してもらうための準備3要素
―アメリカで就職したいと思った際に、事前に準備しておいた方がいいことがあれば教えてください。
宜保さん:第一に、コネクション作りです。海外で働きたいのであれば、LinkdInを使うべきですし、特にアメリカだとリファラルが重要になります。コネクションを作ったり、ヒアリングしたりするのはハードルが高いと感じるかもしれませんが、アメリカはネットワークを広げることに積極的な人が多いので、リクエストしたら意外と承諾、返事をしてくれると思います。
次に、躊躇せずにアタックしてみることです。アメリカの人は、HRや社長などに直接メッセージを送って自分を売り込むのも普通です。現地の人も行うことですので、日本人だからと言って遠慮せずアタックしてみてください。きちんと添削したレジュメも準備しておきましょう。
最後に、思い描くポジションがある場合は、ジョブディスクリプションを確認してください。業務内容、必須スキル、求める経験年数などは記載されています。そういったものを事前に確認し、今の自分と照らし合わせて足りない部分が何かを理解し、そのギャップを補うことは重要かもしれません。そのために今勤めている会社で、自分が担当する範囲を広める調整をしてみたり、新しいツールを導入・利用したり、少しでもスキルを補う活動をして準備をしてみるのはどうでしょう。もしその環境では難しければ、まずは国内で転職することも選択肢になると思います。
これらのポイントに共通して言えること、特に海外で働くことを目指される人にとって、情報収集能力は鍵だと言えます。日本から収集できる情報にはもちろん限りがあるとは思いますが、可能な限り自分からプロアクティブに情報を掴みに行きましょう。そうでないと、もしアメリカに来れても現地で生きていけません。ハングリーに、アグレッシブに動いてみてください。
若者へのメッセージ
これまで、アメリカで活躍されたきた経緯や要因、Soy Kinako についてやアメリカで働きたいと思う人へのアドバイスを頂きました。最後に若者へのメッセージを頂きました。
宜保さん:日本の外に目を向けて、実際に海外へ行ってみてください。そして、海外の人から見た日本はどのように見えているのかを確かめてください。日本のメディアの情報だと、日本を美化した報道が少なからずあります。日本人が見る日本と、海外の人が見る日本の違いを体験してみてください。アメリカではダイバーシティを進める時代の流れでアジア系人種の活躍がより頻繁に見られるようになってきていますが、中華系、韓国系と比較するとまだまだ日本人の数は少ないように感じます。今後海外に出る動きが活発になり、世界で活躍する日本人が増えればいいなと思います。
宜保 陽子
Founder & CEO, 108Labo/Soy Kinako
大学卒業後、楽天、Google日本法人に勤めた後、渡米。ニューヨークのヘルスケアスタートアップNoomで日本法人立ち上げ、グロース戦略に携わる。その後も現地のスタートアップでマーケティング責任者を歴任。2023年1月にマーケティング・コンサルティング会社 108 Labo、きなこブランド Soy Kinako を創業し、ニューヨークを拠点に活動中。(2024年1月現在)
☆宜保さんのX(旧:Twitter):https://twitter.com/newyokor
☆108 LaboのHP:https://www.108labo.com/
☆Soy Kinako のHP:https://www.soykinako.com/