What's up 日本

会社を退職しベルギーの大学院へ進学「自分が居心地のよい場所を探すために」【ベルギー在住エディター・雨宮 百子】

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大学院へ通うベルギー在住エディター雨宮 百子さんインタビュー

今回お話を伺ったのは、ベルギー在住の雨宮さん。日本経済新聞社の記者や出向先の日本経済新聞出版社(現日経BP)で書籍編集者としてご活躍され、2022年8月に退職。現在はベルギー・ルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学びながらエディターとしてもご活躍されています。会社員時代のご経験や、海外で生活しながら感じる日本についてお話していただきました。

毎日が充実していた会社員時代と転機

やりたいことはできていた記者・編集長時代

大学時代から編集に興味があり、志望していた新聞社から内定を頂き、記者として働き出しました雨宮さん。その後、本の出版にも携わることができ、ある程度自分がやりたいことは実現できたようです。

雨宮さん:記者として好きな企画や取材も立てさせていただけたし、書籍編集者としても作りたい本を出版できたので、自分のやりたいことは実現できていました。周りはベテランの先輩ばかりでしたので、自分の実力不足に不甲斐なさや、早く成長しないといけない焦りはありましたが、仕事への不満は全くありませんでした。むしろ仕事が大好きで、休日を残念に思う日があったくらいです。

―会社員時代はどのようなスキルが身に付きましたか?

雨宮さん:記者と編集者では、身に付いたスキルは異なります。記者だと、綺麗な文章を書く能力や質問力が鍛えられました。自分が作成した記事が、原稿をチェックするデスクの手によって、読みやすい文章になって返ってきます。「どうやったらこういう言い回しができるんだろう」と勉強にもなりましたし、憧れでもありました。また、日系電子版を担当しており、複数のプロジェクトにも携わることができました。企画立案能力や、その企画を実現するための足を使った取材力も鍛えられました。

一方、編集者は、全体を管理する力やプロジェクトを回す力が身に付きました。私は書籍編集者だったので、著者やデザイナーを始めとする関係者をまとめ、期日までに書籍を刊行する必要がありました。月に1冊出版するとして、年間最低でも12冊のプロジェクトを管理しています。記者時代のような短いスパンではなく、本を出版する際は約1年スパンでみるので、スケジュールを管理しながら調整するのは、記者とは違った学びがありました。

その中で、世の中や読者が何を考えているのかを理解するマーケット感覚が重要となり、著者と良いものを一緒に作り上げるプロセスは勉強になりました。一冊一冊同じパターンに当てはめることはできないからこそ、面白さも感じていました。

また、書店で自分が出版した本をお客様が手に取って、購入されたのを見た時は感動的な瞬間でした。本の企画を出す最初の段階では、「誰か買ってくれるかな」と不安ではありますが、販売数の数値を見ると感動します。何も無いところからアイディアを出し、アウトプットしてお客様の元に届くまでに携われることがやりがいでした。

学生時代から志望していた仕事を具現化した会社員時代。充実した日々を過ごすことができたそう。【本人提供】

海外の大学院進学への転機

充実した新聞社でのキャリアを歩んでいた中、2022年8月に日経新聞社を退職し、ベルギーのルーヴァン経営学院へ進学されます。その決断にはどのような経緯があったのでしょうか。

雨宮さん:新聞社に勤めている時に、勤務後や週末を使って日本の大学院でMBAを取得しました。海外に提携校があり、留学に強い大学院でしたが、コロナの影響により全てオンライン留学となってしまいました。もちろんオンラインで様々な国の授業を受け、費用を安く抑えることはできましたが、実際に行って学びたい気持ちも強くなりました。

終盤になってコロナが緩和し、3週間のプログラムを利用してフランスとベルギーに留学しました。そこで、ヨーロッパは学費が安いと知り、日本に帰国してさらに調べ、見つけたのが今の大学院です。ヨーロッパについて学びを深めるのも面白そうと思い、進学への準備を始めました。

―ご自身で出願方法や、大学院のシステムについて調べると同時に、退職に向けた準備もされたと思いますが、大変ではありませんでしたか?

雨宮さん:2月から調査を始めて、3月末に出願締め切りだったので、スピード感を持って準備を進めました。直接教授にも連絡し、書類を揃えて出願したところ、6月に入学通知が届きました。合格したのはいいものの、会社に報告する時はなかなか言い出せなかったです。仕事柄、引き継ぎも難しく、考えを整理して上司に伝えるまで時間が必要でした。合格通知を受け取ってから数日経って、上司に報告しました。最初は驚かれましたが、快く送り出してくれました。

正直、「学費が安い」と聞くまではヨーロッパの大学院へ進学するなんて考えていませんでした。「いつか行きたい」とは思っていましたが、編集者の仕事も好きでしたし、目の前の日常に追われていたので、考える余裕すらありませんでした。なんとなくではありましたが、アクションを起こしたことで合格通知を頂き、「行ったら面白そう」と思い、留学に至りました。

自分が「面白そう」と思う道を選択し、ベルギーへの進学を決めました。【本人提供】

自ら発信して気づいた価値と現状

学業の傍ら、業務委託で仕事をしつつ自分でも発信を始め、活動の幅を広げている雨宮さん。自分での発信を始めたことで、自分自身と日本人の価値観を再発見されたそうです。

文章を書くこと=好きなこと

―学業の他に、現在はどのような仕事をされているかを教えてください。

雨宮さん:前職時代からの繋がりなどをもとに、文章作成や編集に携わりながら企業のコンテンツ作成をサポートしています。また、LinkdInなどのSNSを利用し、ニーズがありそうな仕事へ自分からも声をかけています。

小さい頃から文章を書いたり読んだりするのが好きでしたが、会社員として「仕事」になると、自分の心の葛藤から、以前のように自由に表現しにくくなりました。「趣味を仕事にしてはいけない」とも言われますが、「まさにこのことかもしれない」と悩むことさえありました。

いざ退職してみると、自分の伝えたいことを好きにアウトプットできている現状に会社員時代とは違った心地よさがありますし、読者の反応もより直接的に届いて面白いなと思います。自分で発信を始めてから日本人から相談を頂くことも多く、「みんなモヤモヤしているんだな」と分かったし、誰かの背中を少しでも押すことができたならよかったなと感じています。

日本人が持つ不安や生きづらさ

―日本人からの相談を受けるとおっしゃられていましたが、海外から見た視点も踏まえて、日本にどのような印象をお持ちでしょうか?

雨宮さん:1年間自分で発信を続けてみて、同世代が日本に対して不安を持っていたり、生きづらさを感じていたりする人が多いと実感しました。私も日本で30年間生まれ育ったので、誇りを持ちたいですし、日本は落ち着くし大好きです。しかし、少子高齢化や人口減少、賃金の問題など課題が多い国でもあります。

こういった状況の中で、希望を持って生きていけるかと言われたら、私も不安ばかりです。ただ、誰もどうしたらいいか分からないし、明確な解決策や正解を持っていないでしょう。しかし、それで思考停止に陥って何もしないより、どうせなら自分なりの正解を探したいと思っています。

モノの見方は人それぞれなので、個々人が自分にとっての正解を考えればいいと思います。自分が思い描く理想と現状の格差があるのであれば、その格差を埋めるための行動をしなければ差は埋まらないですし、個人として何ができるのか考えないと何も進まないと思います。例えば、私はベルギーに来たことで、大陸からの視点や、日本との給料やジェンダーギャップの差などが見えてきました。どちらがいい悪いではなく、比較によって生じたモヤモヤを発信しながら、自分の居心地のよい環境や、より多くの人が幸せになれる道を考えていきたいと思っています。

あらゆる面において感じる日本とヨーロッパの違いを発信し、自分の居心地の良い環境を目指されています。【本人提供】

誰かが描いた正解がその人にとっての正解とは限らない

―会社員時代を経て、様々な視点から世の中を見られていることが伝わってきました。最後に、若者へのメッセージをお聞かせください。

雨宮さん:無責任だと思われるかもしれませんが、「やりたいことをやればいい」と思います。誰かが描いた正解は、その人にとっての正解ではありません。自分の人生を生きなきゃいけないのは自分だし、他人は人生の責任を取ってくれません。悩みは尽きないと思いますが、今の世の中、不安がない人の方が圧倒的に少ないと思います。

人工知能やAIの出現によって数カ月単位で常識が変わるし、海外に出れば日本の非常識が海外の常識ということもあります。読書でも、人に会うでも、旅をしてみるでもいいので、自分の思考パターンを疑ってみると、新しい発見ができるかもしれません。

雨宮 百子

早稲田大学政治経済学部卒業後、Forbes JAPAN編集部でエディター・アシスタントを経て、日本経済新聞社に入社。記者として就活やベンチャーを取材する。その後、日本経済新聞出版社(現・日経BP)に書籍編集者として出向。ベストセラーを含め、60冊以上のビジネス書をつくる。就業中に名古屋商科大学院で経営学修士(MBA)を取得。2022年8月に退職・独立し、ベルギーへ移住。現在は、ルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学ぶ。

☆雨宮さんのオフィシャルブログ”GLOBAL LENDS”:https://amemomo.tokyo/
☆[BUSINESS INSIDER]雨宮さん記事一覧:https://www.businessinsider.jp/author/Momoko%20Amemiya/
☆雨宮さんX(旧Twitter)アカウント:https://twitter.com/amemomo_edit
☆雨宮さんLinkdInアカウント:https://www.linkedin.com/in/momoko-amemiya/?originalSubdomain=jp

 

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