What's up 日本

日本人学校の学校教育とは?ナイロビ日本人学校・長渕校長インタビュー

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“日本型教育を提供する”使命と“子供の姿で返す”教育を

自然豊かなケニア。首都ナイロビに日本政府公認の在外教育施設として「ナイロビ日本人学校」があります。50年以上続く歴史ある学校。治安は決して良いとは言えないケニアにおいて、日本人の子どもを預かり、日本型教育を提供されています。今回は、ナイロビ日本人学校の長渕校長にインタビューしました。

約30年前に赴任したジャカルタでの経験を子供たちに伝えたい

シニア派遣教師※1という形でナイロビ日本人学校に赴任し、学校運営を務める長渕校長。海外の日本人学校で校長を務める想いは、約30年前のインドネシアでの経験にありました。

長渕校長:30年ほど前にインドネシアのジャカルタ日本人学校で3年間務めた経験が、生徒への向き合い方や自分の生き方など、人生を大きく変えた出来事となりました。日本全国から派遣された素晴らしい先生方との出会いがあり、日本人学校内で多くの学びがありました。また、海外で生活すると日本人としての価値観や、自分が持っていた考えが通用しないことを痛感しました。

インドネシアだけではなく、当たり前が通用しない世界がこの地球には広がっている。子供たちにも視野を広げ、モノの見方や考え方を柔軟になるような教育をしていきたい想いが生じました。帰国後もこの想いを持ってより一層教育に打ち込み、福岡県の国際理解教育研究会に入って国際理解の教育を学んだりしました。

インドネシアから帰ってきて約30年間、子供たちにグローバルな視点を伝える教育を信条とし日本で働いていました。年を重ねるたびに海外への想いが強くなり、海外の現場で教育に携わりたいと思うようになりました。日本で校長を退職した後、文部科学省のシニア派遣教師の応募要件もクリアしていたので、この制度に応募しナイロビ日本人学校の校長として赴任することになりました。

校長室の様子。インドネシアでの経験がケニアで校長を務めるキッカケとなりました。

選ばれる在外施設になるべく“日本型教育を提供する”最大の使命

「選ばれる在外施設」を日本の文部科学省や外務省が掲げ、海外に住む日本人の子どもたちに学びの場を与えています。インターナショナルスクールを選択する日本人も増加する中、「選ばれる在外施設」を目指し、長渕校長は学校運営されています。

長渕校長:文科省や外務省が掲げる“選ばれる学校”とはどのような学校なのでしょうか。日本人学校がインターナショナル化していくことが選ばれるということなのでしょうか。それも1つの選択肢ではあると思いますが、私は「海外で生活する子供たちに日本型教育を保証する」ことが日本人学校の最大の使命だと考えます。子供たちに日本型教育を提供することで、日本の子供たちと同等の学力や道徳性、生活様式を身に着ける。日本人として受けることができる教育を提供しています。

その中で、英語教育の充実や現地との交流を行い、日本の学校以上に在外の強みをプラスすることで特色を出すようにしています。例えば、現地に長年住んでいる子供と来たばかりの子供を比較すると、どうしても英語力の差があります。英語に苦手意識を持たないよう、習熟度別で英語に触れる機会を提供するようにしています。また、ケニアにはスラム街が多数存在し、国内最大規模のスラム街の近くにある学校とも提携しており、運動会や発表会に招待して異文化交流する時間も大切にしています。日本型教育と、在外の強みを生かした教育を両立して提供することで、選んでいただける学校を目指しています。

「日本型教育の提供」を最大使命に掲げる長渕校長。学校の校庭は様々なイベントで利用されています。

親子像が多様化しても“子供の姿で返す”教育を

数年前までは、駐在員のお子さんをお預かりすることが多く、3年前後で日本に帰国することを見据え、子どもが帰国しても困らないような日本の教育が求められていました。近年は、現地で生まれ育ったお子さんが増加しており、教育に求められるものが変わってきている印象があるそうです。

長渕校長:駐在員のお子さんだけでなく、現地で長く住まれる方も多くなり、日本人学校に求める教育が異なるようになりました。日本の教育を提供することに感謝される声がある一方、グローバル人材育成を見据えて日本語教育だけでなく、英語教育を充実して欲しいという声もあります。教育に対する価値観が多様化する中、どのように折り合いをつけてご理解をいただくのかは大きな課題でもあります。

その中で、先生たちにいつも話しているのは、「いろんな声があるけれども、結局は子どもの姿で返さなくてはいけない」ということです。学校がいくら説明したとしても、保護者に納得いただけるには限界があります。子どもが家に帰った時に、「学校でこんなことができた」「学校でやったことが楽しかった」など、子どもが家で学校のことを親に話すのが一番大事なことです。おかげさまで、子どもたちが「学校は楽しい」と家庭内で言っているという声を多く頂き、先生たちの頑張りが子どもたちの姿になっていることをとても嬉しく感じております。引き続き子どもの姿で返す教育を教員一同で取り組んでいきます。

音楽室の様子。有事の避難場所にもなるそうです。

外国との共存でよりよい日本を

これまで、インドネシアでの経験を大事にしながら先生のキャリアを歩み、ナイロビ日本人学校の校長として学校運営に携わる際の考えなどをお聞きしました。最後に、日本の若者へのメッセージをいただきました。

長渕校長:日本の外に出ると、日本のありがたさや凄さ、豊かさなど良い面をたくさん感じます。それだけ日本は素晴らしい国です。先代の日本人が作ってきてくれたおかげで今の日本があります。

これから先、日本をさらに発展させるのは未来ある若い人たちです。日本国内だけを考えていると、日本の豊かさやありがたさに気づきずらいですし、日本自体が上手く発展できない可能性があります。だからこそ、若い人たちには外に目を向けて欲しいです。自分が海外に出るだけではなく、日本にはたくさんの外国人がいますし、身近にいる外国人を受け入れてください。日本は日本だけで成り立っているのではなく、外国との共存で成り立っています。外に目を向けて、自分はどんな貢献ができて、何ができるのかを考えてみてください。夢や希望を持って頑張る若者が1人でも多くなることを期待しております。

長渕 正明

ナイロビ日本人学校校長。文部科学省が募集しているシニア派遣教師としてナイロビ日本人学校に赴任。教育方針の策定はもちろん、私立学校のため財務や経営にも携わる傍ら、国語の授業も担当。学校運営員会や学校財団、日本人会の運営にも関わり、幅広い業務を担当。校訓である「たくましく ゆたかに 大地を吹く 風になれ」をもとに教育に従事されている。(2023年12月現在)

☆ナイロビ日本人学校HP:https://xn--eckyd2a0hu74oe5pmzq0kcc1c.com/

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