What's up 日本

北欧・スウェーデンで就学前学校の校長先生「人」の成長がやりがいに【田中 麻衣】

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スウェーデンで校長として働く「やりがい」と日本の教育現場でも参考にできる施策とは?

大学卒業と同時にスウェーデンに移住し、教育に携わってきた田中さん。現在は、就学前学校の校長として組織運営やマネジメントに従事しながら、出版やコンサルタント業など幅広くご活躍されています。そんな田中さんに、スウェーデン移住や教育について、若者へのメッセージをお聞きしました。

田中 麻衣

大阪大学外国語学部卒。高校と大学で1年ずつのスウェーデン留学を経て2012年に移住。教育関係の会社に就職し、スウェーデンの学校運営に携わる。ストックホルム大学にて校長資格取得。小・中学校の教頭、校長職を経て、現在は就学前学校の校長として組織運営やマネジメントに携る。
田中さん執筆の本:スウェーデンと日本発!非認知能力を伸ばす実践アイディアブック

高校と大学在学中に経験した「2度のスウェーデン留学」

―高校時代に留学をされた経緯を教えてください。

進路選択のタイミングで周囲が志望校を決める中、「自分がやりたいこと」や「将来なりたいもの」急に聞かれて、決めることができませんでした。今までやるべきことのレールに沿ってきただけで、自分自身の内側に目を向けてこなかったと気づきました。もともと海外に興味があったので、留学して自分と向き合う時間を作ることにしました。

―スウェーデンを選んだ理由と、現地での留学はいかがでしたか?

この留学制度では行き先を決めることができなかったので、全くの偶然でスウェーデンに決まりました。初めての海外・初めての親元を離れる経験で、半年間は慣れるのに精一杯でした。スウェーデンでの生活に馴染んできて間もなくの帰国だったので、「もっと伝えたいことがあった。もっと理解したいことがあった。」という気持ちが強く、帰りの飛行機の中でもう一度留学することを決意しました。

―大学時代はどのような学生生活を送りましたか?

当初の目的だった、2度目のスウェーデン留学を大学3年次に経験できました。本当に入りたかった学部・専攻でしたし、先生方が素晴らしかったので恵まれていました。もっと大学以外に世界を広げたいと思い、教育系NPOで活動したり、京都で長期インターンをさせていただいたりしました。NPOの活動では、地域の学校と企業を繋げるプロジェクトに学生スタッフとして携わりました。学校の方と一緒になって進めていたので、大学在学中は教育に関わる機会も多かったです。

2度のスウェーデン留学を経験し、大学卒業後もスウェーデンでキャリアを築くこととなりました。

田中さんが思う「教育の魅力」とは?

「成長」に携われる魅力

―大学卒業後にスウェーデンへ来た際には、教育関係の仕事を志望しましたか?

実は教育に絞っていた訳ではなく、様々な求人に応募し、返事を頂いたのが学校でした。もちろん大学時代から教育に関わることもありましたが、学校現場で教育に携わりたいという明確な志があって始めたというよりは、むしろ入社してから教育の魅力を知りました。

―入社後に気づいた教育の魅力についてお聞かせください。

「人の成長を感じる瞬間」に携われている点が教育の魅力です。子どもたちや先生方が、自分の良さや能力に気づけた瞬間、何か達成した時の表情や満足感を直に感じますし、何が人を成長させるのかについて非常に興味があります。「良い組織は何なのか」について先生方と認識をすり合わせ、「そのためにはどういう声がけや組織づくりをすればいいのか」という具体的な行動レベルに落とし込むプロセスに面白さを感じています。

就学前に重要となる教育

―以前は小中学校の校長先生も務め、現在は就学前学校の校長先生をしている訳ですが、就学前と後で違いはありますか?

カリキュラムに対する自由度が大きな違いです。就学後は、どうしても科目ごとの授業時間数や成績に気がとられるので、運営としても制限があります。一方、就学前は自由度が高く、子ども達の興味関心をしっかり反映させてながら、学びの場を作ることができるので子どもたちの主体性や、学ぶことの楽しさを大切にすることができます。

―就学前の子どもに対する教育の目的は何だとお考えですか?

1つ目が、「自分は自分でいい」という自己肯定感を身に着けること。2つ目が、学びの楽しさを理解してもらうことだと考えています。学びのプロセスの中には、できないことに直面するという大切なフェーズがあります。そのフラストレーションを乗り越えるための忍耐力や自分を信じる力、つまり「非認知能力」は特に重要です。時に「できる」と「できない」はとても曖昧です。算数であれば、数の数え方が分からないのか、何を聞かれているのかが分からないのかは全く違いますよね。何ができていないのかを明確にできるよう導くのも先生の役割だと考えています。「できない」はできるまでの過程なので、安心して失敗できる環境作りが欠かせません。

自分が思っていることを発言しても攻撃されない心理的安全、失敗ができる環境作りの必要性は子どもも大人も変わらないと実感しています。先生たちが子どもたちのためにそうした環境を作っているように、私も先生たちのためにそうした組織作りを目指しています。

田中さんが校長を務める学校の美術室。児童が作成した作品が並ぶ。

田中さんが描く今後の教育への関わり方

―今後のキャリアビジョンや目標はありますか?

あまり先のことは考えないタイプなので分からないですが、将来的にはもう少し日本に関わる仕事ができればと思っています。今のお仕事では毎日出勤するのが当然ですので、平行して別のことをするのが難しい状況です。今の仕事をフルタイムから時間を減らし、新しいプロジェクトに挑戦したいと思っています。スウェーデン式のを取り入れた学校運営やコンサルタント業に興味があるので、実現できるようこれから勉強していきたいです。

―現在のキャリアは、10代・20代のころに描いていたキャリアを歩めていますか?

私が10代・20代の頃は、「この年になったら自分のキャリアの道筋は全部見えているだろうな」と想像していました。これからも校長を続けるであったり、校長のキャリアでも違う学校に移ったりなど大きな変化は無いと。この年になってみると「キャリアについて迷いがなくなるわけではない」と知りました。仕事について何年経っても未来の不透明さはなくならないものだと、10代の頃の自分に言ってあげたいです。(笑)だからこの先の一生を決定づける最後の選択かのように思わなくていい、迷っていいし、変えてもいいと。唯一この年で違うのは、仕事を変えたり、国を変えたり、本当にやりたいことがあれば簡単ではないけれど、きっとできるという気持ちを持てていることだと思います。

教育現場の問題を解決するかもしれないヒント

―日本の教育現場にはたくさんの問題があります。スウェーデンで教育に関わっている視点から解決策などはありますでしょうか?

日本の状況をあまり認識していないのと、条件が全く異なるのでスウェーデンのやり方が適応できるか分からないというのが正直な答えです。教員職は激務で時間が足りないというのは、スウェーデンでも言われていることです。効率的な組織づくりに関して言えば、何に時間やエネルギーがかかっているかを明確にすることが最初の一歩だと考えます。こうした作業は地味で、それ自体に時間をかけなければならないので後回しになりがちですが、私は効果を実感しています。私の学校では、エネルギーや時間が無駄に奪われていることを先生と話し合って、目標達成に関係のないもの、妨げになっているものをカットしていきます。自分一人で考えていても解決しないことは、現場を一番理解している先生方に聞くのが近道だからです。

決定権や責任の所在が不明確になっていることも洗い出します。ここが明確でないと、不要な衝突が起きたり、先生方の間で派閥ができたり、言った・言ってないの水掛け論になりかねないからです。

客観的に日本の教育現場に助言すると、日本国内の成功例を積極的に取り入れるのも良いと思います。日本の先生からも良い事例や成功例をたくさんお聞きします。海外の成功例を取り入れなくても、日本国内にはたくさんの成功例がありますし、成功例がどんどん広まれば、新しい取り組みをしようと検討する学校も増えてくるでしょう。

現場マネジメントの視点で日本の教育現場への提言をして頂きました。

自分は思っているよりもできる!海外に正解はない

―最後に若者へのメッセージをお願いします。

1つ目は、「自分は思っているよりもできる」です。自分が5くらいはできると思っているなら、最低でも7~8は辿りつけると思っています。大学時代にメンターから「本当はそれ以上できるはずだけど自分で限界を決めていて、自分が確実にやれると思った選択肢の中から1番大変なものを選んでいるんじゃないかな。」と言われたことがあります。そもそも自分ができる!と思えていないことを選択肢に入れるのは簡単ではありませんが、無理だと思ってもできると信じて挑戦してみてください。私も自分の可能性を自分で小さくしてしまわないように、戒めの気持ちを込めて伝えたい言葉にさせていただきます。

2つ目は「迷うことを不安に思わなくていい」というです。今間違った場所にいるんじゃないか、もっと違う仕事や場所に行くべきだと思うかもしれませんが、最適な場所にいたとしても迷いは絶えません。それは、自分の可能性に対してすごく興味があるということです。だからこそ、「迷っても大丈夫。分からなくても大丈夫。みんな迷っているから。」と思えたら、一歩踏み出しやすくなるような気がします。

 

田中さんが執筆された本はこちら

 

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